東京地方裁判所 平成8年(行ウ)294号・平9年(行ウ)146号 判決
原告
星野英一
右訴訟代理人弁護士
大場民男
同
海老原照男
被告
東京都
右代表者知事
青島幸男
右指定代理人
江原勲
同
若栗征宏
同
洗川文雄
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 主位的請求について
1 収用法によれば、事業認定は、起業者が事業認定の告示があった時から一年以内に収用又は使用の裁決の申請をしないときは、右の期間満了の日の翌日から将来に向かって、その効力を失うものとされているが(同法二九条一項)、都計法七一条一項は、都市計画事業については、収用法二九条の規定を適用せず、右規定により事業認定が効力を失うべき理由に該当する理由があるときは、その理由の生じた時に、事業認定の告示があったものとみなし、同法三九条一項(収用又は使用の裁決の申請)、四六条の二第一項(補償金の支払請求)、七一条(土地等に対する補償金の額)等の規定を適用する旨定めているものである。
したがって、都市計画事業の認可等の告示があった後、都市計画事業の施行者(起業者)が、一年以内に裁決の申請をしなかった場合には、その時点で新たに事業認定の告示があったものとみなされ、収用する土地等に対する補償額も、当該みなし告示時を基準時として算定されることになり、その後も一年ごとに、新たに事業認定の告示があったものとみなされ、収用する土地等に対する補償額は、裁決の申請があった時点における直前のみなし告示時を基準時として算定されるものである。
これを本件についてみれば、前記第二の二記載のとおり、平成三年一月一〇日付けで本件事業について建設大臣の認可の告示があり、その後、平成六年一二月二七日付けで被告が本件土地について収用の裁決を申請したのであるから、収用法一三五条一項の定める方法により期間計算を行うと、平成六年一月一二日が裁決の申請があった時点における直前のみなし告示時となるので、本件裁決が同日を基準時として本件土地に対する補償額を算定したのは、都計法七一条一項に従ったものということができる。
2 この点に関し、原告は、前記第二の三1(原告の主張)記載のとおり、本件土地に対する補償額は、少なくとも平成四年一月一一日を基準時として算定すべきである旨主張する。
しかしながら、以下のとおり、原告の右主張は採用することができない。
(一) 原告は、地価が下落を続けている場合に都計法七一条一項をそのまま適用すると、収用される土地の価格が引き下げられて補償額が低額となり、土地所有者らの権利が甚だしく害される旨主張する。
しかしながら、収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合に、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠性の回復を図ることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をすべきであり、金銭をもって補償をする場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することを得るに足りる金額の補償をすることを要するものであり、かつ、それをもって足りるものである(最高裁昭和四六年(オ)第一四六号同四八年一〇月一八日第一小法廷判決・民集二七巻九号一二一〇頁参照)。
そして、右の理は、都市計画事業のために土地を収用する場合であっても、何ら異なるものではないところ、都市計画事業のために土地を収用する場合には、都計法七一条一項により、裁決の申請があった時点における直前のみなし告示時が補償額算定の基準時とされる結果、地価が下落傾向にあるときには、原告が指摘するように、都市計画事業の認可等の告示があった時、あるいは裁決の申請があった時点における直前のみなし告示時よりも前のみなし告示時を基準時として補償を受ける場合と比較すると、当該土地の所有者が受け取る補償額が低額になる場合があるが、これは、地価の下落により当該土地の財産価値が減少したことによるものであって、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をするという観点からすれば、むしろ、当然のことであり、このように補償額が低額になることをもって、憲法二九条一項によって保障された財産権の侵害があるということはできないものである。
右のとおり、地価が下落を続けている場合に都計法七一条一項を適用することにより補償額が低額となることをもって、土地所有者らの権利が甚だしく害されるとする原告の前記主張は、都計法及び収用法による損失補償の趣旨を正解しないものであり、失当というべきである。
(二) また、原告は、本件事務所の職員が道路用地に必要な土地だけを分筆して買収に支障のない状態にすれば、優先的に買収する旨約束したので、本件土地について平成四年一二月一六日に分筆登記を行い、いつでも収用に応じられる状態にしていたにもかかわらず、被告は、本件土地の収用手続を行わず、その一方で、他の土地について買収手続を進め、少なくとも合計八筆の土地を同年一月一一日を基準時による価格で取得しており、被告は、当時既に下落傾向にあった地価の更なる下落を見込んで故意に買収を遅延させたものと考えられるとして、憲法一四条の定める法の下の平等の趣旨、憲法二九条の定める財産権の保障の趣旨からしても、形式的に都計法七一条一項を適用することなく、同日を基準時として本件土地に対する補償額を算定すべきである旨主張する。
しかしながら、後に説示するとおり、本件事務所の職員が、原告に対し本件土地について分筆登記を行って買収するのに支障がない状態にすれば、これを買収する旨約束した事実や、同事務所の職員が買収費用を削減する意図で、本件土地について買収交渉を殊更遅延させた事実を認めることはできない。
原告が問題とする憲法の条項との関係についても、都計法七一条一項により、裁決の申請があった時点における直前のみなし告示時が補償額算定の基準時とされ、その基準時が毎年更新されていく結果、地価が下落傾向にあるときに、当該土地の所有者が受け取る補償額が低額になったとしても、これをもって、憲法二九条一項によって保障された財産権の侵害があるということができないことは、前示のとおりである。また、右のとおり補償額算定の基準時が毎年更新されていく結果、異なる時期に土地を収用された土地所有者相互間において、その補償額に差異が生じたとしても、それは、地価の変動に伴い当該土地の財産価値が変動した結果によるものであって、これをもって直ちに、憲法一四条一項により禁止された合理的な理由のない差別であるということはできないものである。
右のとおり、原告の前記主張は、その前提事実を欠き、また、憲法の条項の解釈を誤るものであって、採用することができない。
(三) さらに、原告は、仮に本件土地の収用について都計法七一条一項が適用されるものとしても、土地所有者において早期の収用を求める意思を明示している場合には、その時点で、収用法三九条二項による裁決申請の請求があったものとして都計法七一条一項を適用すべきであり、本件において、原告は、本件土地の早期買収を希望して、本件事務所の職員の指示どおりに、平成四年一二月一六日に本件土地について分筆登記を行い、早期の収用を求める意思を明らかにしていたのであるから、右の時点で裁決申請の請求があったものとして、その時点における直前のみなし告示時である平成四年一月一一日を補償額算定の基準時とすべきである旨主張する。
しかしながら、収用法三九条二項による裁決申請の請求は、書面によってしなければならないものであり(収用法三九条三項、同法施行規則一五条の二)、また、その点を別にしても、都市計画事業のために収用する土地等に対する補償額は、収用法三九条二項による裁決申請の請求があった時点ではなく、同条一項による裁決の申請があった時点における直前のみなし告示時を基準時として算定されるものであることは、都計法七一条一項、収用法二九条一項、七一条の規定により明らかであり、原告の前記主張は、都計法及び収用法の規定上何らの根拠もないものといわざるを得ない。
したがって、原告の前記主張は採用することができない。
3 以上のとおり、本件裁決が、被告から裁決の申請があった時点における直前のみなし告示時である平成六年一月一二日を基準時として本件土地に対する補償額を算定したことには何ら違法性がないところ、〔証拠略〕によれば、右基準時における本件土地の価格は、本件裁決が採用した被告の見積額五億一〇八九万円を上回らないものと認めることができ、本件裁決が補償額算定に当たって適用した収用法七一条に定める右基準時から権利取得裁決の時である平成八年九月三〇日までの法定修正率も相当と認められるから、本件裁決が定めた補償額五億一一四〇万〇八九〇円は苫本件土地に対する補償額として欠けるところはないものと認められる。
4 したがって、収用法一三三条に基づき、本件裁決のうち損失の補償に係る部分が違法であるとして、本件差額の支払を求める原告の主位的請求は理由がないものというべきである。
二 国家賠償法一条一項又は民法七〇九条、七一五条に基づき損害賠償金の支払を求める予備的請求について
1 前記第二の二記載の事実と〔証拠略〕によれば、次の各事実が認められる。
(一) 被告は、本件計画街路の整備事業の一環としても東京都渋谷区千駄ケ谷五丁目地内における整備事業である本件事業について事業計画を立て、平成三年一月一〇日、本件事業について建設大臣の認可の告示があった。本件事業の事業施行期間は、同日から平成一〇年三月三一日までであり、被告は、右の約七年の期間で、総事業費九七〇億円をかけて、六一六〇平方メートルの用地買収と街路築造工事を完了させることを予定していた。
(二) 被告は、本件事業の認可の告示があった後、都計法六六条、同法施行規則五三条、三八条の三第一項、収用法二八条の二、同法施行規則一三条、一三条の二の規定に基づき、事業地内の土地建物等の有償譲渡についての届出義務や裁決申請の請求に関する事項、補償金の支払請求に関する事項、明渡裁決の申立てに関する事項等について記載した掲示板を本件事業地内に二か所設置し、土地所有者及び関係人にその内容を周知させるための措置を講じた。
また、本件事業を所管していた本件事務所は、平成三年三月二九日午後七時ころから午後八時三〇分ころまで、地元の東京都渋谷区立鳩森小学校において地権者等に対する用地説明会を開催し、出席者に対し「公共事業と補償」と題するパンフレットを配付して、これに基づき用地買収の手順や補償の概要等について説明を行ったところ、右パンフレットには、土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人が、早期に土地等の補償金の支払を希望する場合は、被告に対し裁決申請の請求と併せて補償金の支払を請求することができる旨記載されていた。
(三) 本件事務所においては、右用地説明会を開催した後、建物等の物件調査、権利関係の調査、測量等の事務を進めたほか、早期の買収を要望してきた地権者との折衝を開始した。本件事業の予算は、約七年間の事業施行期間に分けて措置されていたため、本件事務所においては、各年度に措置された予算の範囲内で用地の買収交渉を進めていたが、地権者の中には早期の買収を希望する者が多数おり、当初予定していた予算では対応しきれなかった。そこで、被告は、平成四年度ないし平成六年度において、当初予定していた予算の二倍を超える予算措置をとり用地買収を行ったが、それでもなお、予算の関係上、早期の買収を要望してきた者のすべてについて、直ちに買収交渉に入ることはできず、本件事務所においては、早期に買収交渉の開始を要望してきた者から、その者の生活状況等を考慮しつつ順にその交渉を進めざるを得ない状況であった。
(四) 原告は、当時、息子との二世帯住宅を建築する計画を立てており、本件土地の補償金をその土地の購入代金に充てることを希望し、また、折から地価が顕著な下落傾向を示していたことから、本件土地が早期に買収ることを望み、平成四年九月二四日、右二世帯住宅のための土地取得の仲介者である不動産会社の社員と共に、本件事務所を訪れ、対応した同事務所用地第一課係長佐藤元康(以下「佐藤係長」という。)ほか一名の職員に対して、本件土地を早期に買収してほしい旨の希望を伝えた。これに対し、佐藤係長らは、用地説明会が終わって以降、早く買収交渉に来てほしいと要望する者が多く、その者らから先に交渉に入っており、原告については、予算的に難しいので、買収交渉は待ってほしい旨回答したところ、原告は、一応これを了承した上で、できるだけ早く交渉に来てほしい旨伝えて本件事務所を去った。
なお、佐藤係長は、右面談の際、原告から本件土地を分筆しておいた方がよいかどうか聞かれたため、買収対象の土地についてあらかじめ分筆登記が行われていれば、その分だけ買収の事務処理が早くなる旨説明した。
(五) 原告は、その後、本件土地を測量の上、平成四年一二月一六日に分筆登記を経由し、そのころ、その旨を本件事務所に連絡して本件土地を買収してほしい旨再度要望したが、応対した同事務所の職員から、予算がないので難しい旨回答され、その後も本件土地についての買収交渉は行われなかった。
(六) 原告は、本件事業の事業地内に、本件土地のほか借地を所有しており、借地人の一人である永井三則(以下「永井」という。)は、平成三年度中から、被告との間で借地権消滅に係る補償契約を締結することを希望していたが、原告と永井との間で借地権割合等をめぐって争いがあったこともあって、補償契約の締結には至っていなかったところ、永井は、平成六年一二月一二日、被告に対し、収用法三九条二項に基づく裁決申請の請求を行った。そして、原告は、本件事務所の職員から、永井から裁決申請の請求があった旨の連絡を受け、原告においても裁決申請の請求をするよう促されたため、原告は、同月一九日、被告に対し、裁決申請の請求を行った。
2 右認定事実に基づき、原告の主張について検討する。
(一) 原告は、原告が早期買収を求めて本件事務所を訪問した際、本件事務所の職員は、道路用地に必要な土地だけを分筆して買収に支障のない状態にすれば、優先的に買収する旨約束し、原告がこれに応じて、本件土地の分筆登記を行うなどして本件土地を買収するにつき何らの支障のない状態としたにもかかわらず、同事務所の職員は、右約束に反して買収手続を進めず、故意にこれを遅延させ、原告に本件差額相当額の損害を被らせた旨主張し、当裁判所における本人尋問において、平成四年九月二四日、原告が本件事務所を訪問した際に、佐藤係長らは、道路用地に必要な土地について分筆登記を行い、買収するのに支障がない状態にすれば、優先的に買収する旨説明した旨供述し、同旨を述べる陳述書(〔証拠略〕)を提出している。
しかしながら、前記認定のとおり、佐藤係長らが買収対象の土地についてあらかじめ分筆登記が行われていれば、その分だけ買収の事務処理が早くなる旨説明した事実は認められるものの、当裁判所における佐藤係長の証言に照らせば、これを超えて、佐藤係長らが道路用地に必要な土地について分筆登記を行い、買収するのに支障がない状態にすれば、優先的に買収する旨約束した事実を認めることは困難であり、原告本人の供述及び陳述書(〔証拠略〕)のうち、右約束があったかのように述べる部分は、にわかには措信し難く、採用することができない。そして、他に右約束があったことを認めるに足りる証拠はない。
また、前記認定のとおり、原告から本件土地について早期買収の要望を受けながら買収交渉を開始することができなかったのは、本件事業の予算が約七年間の事業施行期間に分けて措置されていたため、本件事務所においては、各年度に措置された予算の範囲内で用地の買収交渉を進めざるを得なかったという予算上の理由によるものであり、本件事務所の職員が買収費用を削減する意図で、本件土地についての買収交渉を殊更遅延させた事実を認めるに足りる証拠はない。
(二) 原告は、本件事務所の職員が、本件土地について分筆登記を行い買収に支障がない状態にすれば、被告がこれを買収する旨約束したので、これに応じて分筆登記を行い、本件土地をいつでも買収可能な状態にして買収を促していたのであり、かつ、当時、地価が将来的に確実に下落していくことが十分に予測し得る状況にあったのであるから、同事務所の職員としては、任意買収に応じられない事情があったとしても、補償金支払請求の制度を知らない原告に対し、右制度があることを告知すべき義務があった旨主張する。
しかしながら、本件事務所の職員が、本件土地について分筆登記を行い買収に支障がない状態にすれば、被告がこれを買収する旨約束した事実が認められないことは、前示のとおりである。
また、当時、地価が将来的に確実に下落していくことが十分に予測し得る状況にあったとしても、前記認定のとおり、被告としては、収用法二八条の二、同法施行規則一三条、一三条の二の規定に基づき、裁決申請の請求に関する事項、補償金の支払請求に関する事項、明渡裁決の申立てに関する事項等について記載した掲示板を本件事業地内に二か所設置し、土地所有者及び関係人にその内容を周知させるための措置を講じており、本件事務所においても、用地説明会を開催し、裁決申請の請求や補償金支払請求の制度についても記載した「公共事業と補償」と題するパンフレットを出席者に配付して用地買収の手順や損失補償のあらまし等について説明しているのであるから、本件事務所の職員には、これらに加えて、原告に対し個別的に補償金支払請求の制度について告知すべき義務はないものというべきである。
なお、原告は、原告が右用地説明会に出席したことを証する書証として、被告が提出した右用地説明会の出席者名簿(〔証拠略〕)に記載された原告の氏名は、原告が自署したものではなく、原告は右説明会に出席していない旨主張するが、〔証拠略〕に記載された原告の氏名と、原告がその自署であることを自認している本件訴訟の委任状に記載された原告の署名を対照すると、「星」の字の「生」の部分の書き方など特徴的な部分が酷似しており、右出席者名簿に記載された原告の氏名は原告によって自署されたものと強く推認されるところである。いずれにしても、原告が右説明会に出席したか否かは、本件事務所の職員の補償金支払請求の制度についての告知義務の有無を左右するものではなく、仮に原告が右説明会に出席していなかったとしても、これによって、同事務所の職員に右告知義務違反の不法行為があったと認められるというものではない。
(三) 以上のとおり、本件土地の取得に関し、本件事務所の職員に原告に対する不法行為があったとする原告の主張は、採用することができない。
3 そうすると、原告の予備的請求のうち、本件事務所の職員に原告に対する不法行為があったことを前提として、国家賠償法一条一項又は民法七〇九条、`七一五条に基づき損害賠償金の支払を求める請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
三 債務不履行による損害賠償金の支払を求める予備的請求について
1 原告は、本件事務所の職員は、原告に対し、本件土地について分筆登記を行って買収に支障がない状態にすれば、これを買収する旨約束し、原告は、これに応じて、平成四年一二月一六日に分筆登記を完了したのであるから、同日、原告と被告との間で、本件土地を直前のみなし告示時である同年一月一一日を基準時とする価格で被告が買い取る旨の売買契約が成立した旨主張する。
2 しかしながら、本件事務所の職員が、原告に対し、本件土地について分筆登記を行って買収に支障がない状態にすれば、これを買収する旨約束した事実を認めることができないことは、前示のとおりであり、他に、原告と被告との間で、本件土地を平成四年一月一一日を基準時とする価格で被告が買い取る旨の売買契約が成立したことを認めるに足りる証拠はない。
3 したがって、原告の予備的請求のうち、右売買契約の成立を前提に債務不履行による損害賠償金の支払を求める請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
四 憲法二九条三項に直接基づき補償金の支払を求める予備的請求について
1 原告は、本件土地の収用により、本件裁決が定めた補償額のみでは償いきれない受忍限度をはるかに超える特別な損失を被っており、右の損失については、収用法や都計法の規定によっては補償され得ないものであるから、憲法二九条三項に直接基づき、本件差額相当額の損失の補償を求める権利を有する旨主張する。
2 しかしながら、都計法七一条一項により、裁決申請があった時点における直前のみなし告示時が補償額算定の基準時とされる結果、地価が下落傾向にある場合に、土地所有者が受け取る補償額が低額になることがあったとしても、これをもって、憲法二九条一項によって保障された財産権の侵害があるということができないことは、前示のとおりであり、本件土地の収用により、原告が本件裁決が定めた補償額のみでは償いきれない受忍限度をはるかに超える特別な損失を被っているということはできない。
3 したがって、原告の予備的請求のうち、原告が右の特別の損失を被っていることを前提として、憲法二九条三項に直接基づき補償金の支払を求める請求は、その前提を欠き理由がないものというべきである。
第四 結論
よって、原告の本件各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)